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【九森信造】『選挙』~汗をかかない代償~

   ↑  2013/07/17 (水)  カテゴリー: レコメンド
さて、今週の日曜日(21日)は、いよいよ参議院選挙です。

もう期日前投票を済ませた方も多いかもしれませんが、今回は参院選に向けて議論されていることを、映画を通じて考えてみたいと思います。


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【あらすじ】

2005年秋、東京で切手コイン商を営む「山さん」こと山内和彦は、市議会議員の補欠選挙に自民党公認候補として出馬することになった。政治は全くの素人である彼の選挙区は、縁もゆかりもない川崎市宮前区。「電柱にもおじぎ」を合言葉に、小泉首相(当時)や自民党大物議員、地元自民党応援団総出の過酷なドブ板選挙が始まった。



アフター郵政民営化総選挙

本作は、山内さんと東京大学で同級生だった想田和弘の初監督作品。余計なナレーションなどもなく、公開された当時は、国内よりも国外で非常に評価が高く、逆輸入的に国内でも評判が高まりました。

私もリアルタイムで大学の授業で見たことと、映画館に見に行ったことを覚えています。今ほど、SNSが隆盛を極めていなかった時代でもあちこちで議論を巻き起こしていました。

ただ、多くの議論が小泉郵政民営化解散を反映してのポピュリズム批判に繋がることが多かったように思います。私もそういう見方をしていた一人でした。

逆に言うと、それだけ、あの2005年9月11日の狂乱は凄かったということです。

しかし、この映画、一度見て味が無くなる「ガム映画」でなく、噛めば噛むほど味の出る「たくあん映画」なんだと、今回あらためて気づきました。


「ネット解禁」、「若者の政治参加」論点で一層輝く映画

今回の参院選では、政策論争が盛り上がらないため、マスメディアが別の論点を出しており、あたかも今回の選挙の目玉のように扱われていることがあります。

それは「若者の政治参加」という問題です。

ネットにおける選挙活動が容認された初めての国政選挙ということで、各方面でも話題になっています。

投票率の低迷という問題とともに、若年層の投票率が低迷していることが問題視されてきました。特に昨年の12月の自民党の圧勝以降、各メディアでも若者の投票率低下が問題であるという取り上げ方が増えてきました。

しかし、映画『選挙』を見ると、問題はもっと根深いところにあると感じざるを得ません。


「汗を流しているのは誰か」問題

私も何度か、地方自治体の選挙のお手伝いみたいなことをしたことがあるので、映画の雰囲気はよくわかります。

候補者本人が演説で駆けずり回ることなどは選挙運動のほんの一部でしかなく、ハガキに宛名を書く、封筒にチラシを折り込む、後援会に勧誘する、演説会の警備計画を作る、友達や親戚にお願いに回る…

まさに「ドブ板」と呼ばれるべき活動が候補者の選挙活動、ひいては当選を支えているわけです。

それでは、その「ドブ板選挙」の担い手は誰なのか。

その答えは候補者の後援会です。では、後援会には誰がいるのでしょうか。

映画内で代表的だったのは、ボランティアで、選挙の応援をお願いするチラシを封筒に封入している高齢の女性でした。彼女は駅前で貸しビル業を営んでいるらしいです。

おそらく、候補者の後援会でボランティアをできる人々は、ある程度の富裕層に限られてくるのでしょう。

政党自身も、安定的な収入がない以上はこういう「ボランティア」の方々がいなければ、成立しない。まして、マンパワーの提供はもちろん、場所や資金を提供する地元の有力者も必要なはずです。


汗を流した対価、汗を流さない代償

最近、若者の投票率低下が高齢者層への優遇を生んでいるといいますが、心情的にはそれだけではないと思います。

自分が、運よく議員になった時に、駆け出しのころからハガキの宛名書きから何から何まで手伝ってくれた高齢者と、ネットで見たような資料を持ってきて過激な要求を突き付ける若者のグループ。

よほど、後者が理路整然と正しいことを言わない限り、心情的には前者の意見を聞くでしょう。まぁ、選挙で選ばれただけの議員が聖徳太子のような聖賢君主であれば話は別でしょうが。

「バカバカしい選挙運動」と考えている若者も多いと思います。それは立候補者自体が一番心得ていること。だからこそ、「バカバカしい選挙運動」でともに汗を流した人に気持ちが移るのは人情でしょう。

まとめると、自由に使える時間も安定した(不労所得という意味での)収入がない若者が「投票行動」だけを起こすことに本当に意味があるのかということです。

確かに、若者が関わらなくても政治が回ってきたという実態はあると思いますし、そこに甘んじているという事実もあるでしょう。「選挙」における若者不在の状況はその異様な時代性を表しているとも言えるわけです。

ですが、投票率の上昇≒若者優遇政治へのシフトなどという簡単な帰結はあり得ません。汗を流さない代償は確実にあります。


汗を流すモチベーション

単純すぎる帰結かもしれませんが、若者の政治参加を促すには、結局のところ、「身近に感じること」が大事なんだと思います。

高校の同級生が立候補したとか、友達のお姉さんが議員になったとか。若者自身が「リアル」だと感じる世界から、若者と政治の世界を繋ぐ人や問題が起こらなければ、変わることは難しいでしょう。

結局、ネット上で選挙運動を展開しても、LINEをいじっているときに出てくる邪魔な広告と同じ扱いで、スルーされるだけです。

映画本編で山内さんが東大の同級生と語らうシーンで

「本当は有名人になってから立候補しようと思っていたんだよ。(中略)でも、2000票ぐらいで地元なら受かるから、地元をしっかり回れば受かるかなぁと。切手コイン商もやりながら区議会議員が器かなぁと思って」


後援会や組織を持たずに選挙に出ようとしていた山内さんが頼りにしていたのは、地元という「リアル」な繋がりだったのです。


投票行動以外の政治参加という道

かといって、私は無秩序に様々な候補が乱立することを望んでいるわけではありません。

というか、「政治参加」=「選挙・投票活動」という短絡的な発想が、日本の弱点であると思っています。

地元のコミュニティー活動や役員、清掃活動などに「積極的に参加」することも一つの政治参加であると思っています。そこで見えてきた問題点や課題に対処することを考え始めた時点で、人は一人のプレイヤーになれるのですから。

投票行動に価値を与えるとすれば、数字の上では1票でしかない自分の票に、どのような質・価値を与えるのか。


自分の一票に価値を与える

それは、ただ、選挙の日に「投票行って外食する」だけでなく、「日常から思っている問題や疑問を自分の一票に色づけしなさい」という当たり前のことを教育してこなかったからこそ、政治に対する偏った考え方が支配的になり、投票率の低迷ということに正面衝突しているのでしょう。

参議院選挙の投票がまだの方は、ぜひ『選挙』のDVDを見て、あなたの一票に「どういう価値を与えるか」を考えていただけたらと思います。

ここで、コマーシャル。
7月6日より公開された続編『選挙2』が話題になっています。

あの山さんの一人の戦い、非常に興味深いです。見に行きたいなー。

(記事編集) http://buraihamegane.jp/blog-entry-22.html

2013/07/17 | Comment (0) | Trackback (0) | HOME | ↑↑↑ |

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